小金井市を中心に活動する編集者ユニット、リュエル・スタジオ

HOME > Topics > Topics03

  • こちらでは「き・まま」制作にあたってのこぼれ話やリュエル・スタジオとしての活動の一端をご紹介していきます。本誌を片手に読むと新たな一面が見つけられるかもしれません。








03≫ 元良志和さんのこと







井上さん、やまさきさんと並んで「き・まま」に欠かせない人、デザイナーの元さん。
だけど、この記事のことを伝えたら、
「俺のことなんか、載せなくてもいいよ」
と言うだろうと思います。
「そんな暇があったら、ほかの記事でも書いたら」
なんて憎まれ口を言うかもしれません。職人気質の元さんは、自分を宣伝するとか、仕事以外の場所で褒められることを喜ばない人なのです。
それがわかっていても平気で記事を書いてしまうーー程度には、筆者は元さんとは長いおつきあいです。最初に会ってから、かれこれ20年は経っているでしょうか。その頃、私は駆け出しのライトノベル雑誌編集者、元さんはその雑誌のアートディレクターでした。当時から職人気質の元さんは、こちらの指定がまずいと容赦なく駄目出しをしました。
「こんなラフじゃ、デザインができないよ」
そんなふうに叱られたりもしました。おかげで、雑誌のデザインとはどういうものか、いいデザインはどこが違うのかということを、ずいぶん勉強させてもらいました。だから、私は自分で雑誌のデザインをすることはできないけれど、その良し悪しがわかる自信はあります。そして、その雑誌から別のところに変わっても、私にとって元さんは最強のデザイナー、困ったときには元さんに頼めばいい、ずっとそんな存在だったのです。
だから「き・まま」を起ち上げてデザイナーを誰にしようかと考えたとき、真っ先に思い浮かべたのは元さんのことでした。元さんはずっとアニメ雑誌やライトノベル雑誌、コミックなど若い男性向けの雑誌をやってきて、「き・まま」のような、どちらかといえば女性向けの雑誌の経験がないことも知っていましたが、結局デザイナーはセンス。上手い人は何をやっても上手い、ということを私は信じているので、迷いはありませんでした。幸か不幸か、元さんは一時期デザインの現場を離れていたのですが、私が連絡する少し前に仕事を再開したばかりだったので、時間的なゆとりがありました。ふつうの商業誌のようにお金にはならないのに、元さんが「き・まま」を引き受けてくれたのは、長いつきあいで義理を感じてくださったこと。さらに、私たちの無謀な挑戦を見て見ぬふりができなかったということもあるけど、いままでと違うタイプの仕事をすることに魅力を感じてくれたからなんじゃないか、と私は睨んでいます。元さんのようなクリエイティブな人間は、お金以上に創作意欲を刺激される仕事を求めるものだと思うので。
そうして、創刊号を見て、正直びっくりしました。シャープなデザイン、シックな色使いが得意な人だと思っていた元さんが、ここまでフェミニンなデザインに仕上げてくださるとは。やまさき薫さんの描く「き・ままちゃん」を細かいところにあしらったり、グリーンやピンクのやさしい色使いで写真を引き立てるようにしたり。実は可愛い系も得意な人だったのか、と元さんの新たな一面を発見する思いでした。
















しかし、雑誌ができあがるたびに元さんは、
「こんなたいへんだと思わなかったよ。こんなんじゃ、いつまでつきあえるかわからないからね」
と言って、我々スタッフを戦々恐々とさせます。でも、たぶんまだしばらくは続けてくださるだろうと思います。それは、私たちへの配慮というよりも、カメラマンの井上さんとイラストのやまさきさんに対する敬意のため、です。
「ビジュアルがよければ、デザインは何もしなくてもいいよ」
などと元さんは言うけれど、写真を生かすために、こちらの出したラフをデザインで大幅に変えてしまうことも珍しくないし、こちらが考えてもみなかったイラストの使い方をしばしば提示してくれます。そして、写真がいいページほど、デザインのクオリティも高いのです。20年経っても私はあいかわらず元さんによく怒られるのですが、写真やイラストについて文句を言われたことは一度もありません。それどころか、元さんの言葉の端々からふたりに対しての深い敬意を感じるのです。そして、「き・まま」のデザインの仕上がりは、その証明でもあるのです。
「き・まま」はちっぽけな、ほんとにちっぽけな雑誌ですけど、ビジュアルのレベルの高さはほかの商業誌にも負けないつもりです。それは、井上・やまさき・元という、この規模の雑誌ではありえないような3人のコラボレーションが誌面を支えてくれるからです。私たち編集者はそのビジュアルに負けないように、斬新な企画を立て、面白い記事を書いていかなければ、といつも思うのです。